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『ヴァンパイア/最期の聖戦』ジャックとアダム神父の関係を中心に観た感想

Twitterジェームズ・ウッズを検索していたときにたまたま知り、U-NEXTの31日間無料体験を利用して初めて観たのが2020年6月。それから3年、この映画のアダム神父のことが頭から離れない。

 

アダム神父はとても慈悲深くて思いやりがある人だと思う。普通、自分を痛めつけたジャックに笑顔で手なんか振れない。アダム神父はジャックから過去の真実を打ち明けられ、自分が知らず知らずのうちにジャックを傷つけていたことに気づいたはずだ。だからジャックを許し、共に戦うことを選んだ。ラストの下ネタも、思いやりから冗談に乗った気がする。言ってはみたものの、ジャックから注意されて恥ずかしくなってたりするんじゃないだろうか(笑)ジャックだって、「悪魔にとり憑かれたのか?」と驚いていたくらいだから、そういう返事は期待してなかったはずだ。

 

アダム神父が好きなら、DVDだけでなく、動画配信サービス又はBDも観てみてほしい。DVDでは見切れているアダム神父の見所シーンが2つあるからだ。BDは日本語版はないものの、ティム・ギニーのインタビューがとても面白い。

それから、英語と吹替の両方で観てみてほしい。吹替だと、アダム神父が死んだ老婆を見てショックを受け祈りを捧げ始めるシーンで、何を囁いているか大体分かる。このシーンはアダム神父の純粋さや清らかさを表す大事なシーンだ。囁き始めた瞬間、ジャックがちょっと驚いたように見上げるのも注目だ。なお、ヘッドホンして英語で観ると、右耳に祈りを囁かれているように聞こえる。

英語だと、ジャックから戦いに参加するか聞かれた時の「I'm with you.」というセリフと言い方に感動する。また、ラストシーンも英語のほうがいい。「見るか?」という爆弾発言は英語にはない。DVDの家中宏さん版のアダム神父のタメ口は、最初に英語で観た人間からすると、なんか違う気がする。テレビ東京版は車内のシーンしか見たことがないが、宮本充さんのですます調の方がしっくりくると思う。日本語版BDを出すときは是非ともテレビ東京版も収録してほしい。

 

アダム神父が好きで、彼についてもっと理解したいと思う人は、『恐怖の詩学ジョン・カーペンター 人間は悪魔にも聖人にもなるんだ』という監督のインタビュー本を読んでみてほしい。安全な場所にいて頭だけで理解していたアダム神父が、実際に吸血鬼を殺すことの残忍さを知り、嘘をつくのをやめて、体を張って男になるが、最後に十字架を取り出して堅い信仰がそのままであることを示すのは、人間として大した進歩だと語っている。2021/5/1に初めて読んだとき、思わず号泣した。アダム神父について熱く語るレビューがほとんどない中、監督自身が一番熱く語ってくれていた。

また、ジェームズ・ウッズについて聞かれた際に、「狂暴な」人間の傷つきやすさに気づいてやらないといけないと語っており、監督の思いやりが、そのままアダム神父のジャックへの思いやりに表れていると分かって感動する。

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監督がこの映画で撮りたかったのが、ジャックがアダム神父に激しい口調で過去を打ち明けるシーンで、このシーンを撮るために、原作小説の設定(ハンターたちが賞金稼ぎのごとく退治の度に金をもらっていること)をやめたそうだ。ただのホラーアクション映画にしたくなかった監督のこだわりが感じられて嬉しくなった。

 

カトリーナがヴァレックの目を通して殺人を見るアイデアは、無垢な人間が悪人の目を通してものを見る『アイズ』のアイデアのやり直し、且つ、原作者のアイデアだそうだ。カトリーナは監督としては外せないキャラだし、シェリル・リーの迫真の演技は凄いとは思うが、西遊記みたいに、男3人+神父のチームで会話とアクションをもっと増やすか、いっそジャックとアダム神父のバディ映画にしたほうが面白かったと思う。

 

この本の最初の方のインタビューでは、監督としての自分の役割は父親的存在であり、俳優やクルーは生い立ちや父親との関係を監督に投影してしまうから、父親のせいでつらい目にあった俳優と仕事をするとつらいことが起きることを語っている。この監督の考えは、ジャックのアダム神父への言動にも反映されているように思う。ジャックは父親のことでつらい思いをしてきた。だから、父親のように大事なことを秘密にする人間が許せない。一方で、父親の異変に気づけなかった自分のことも責めているのではないだろうか。だから、アダム神父を「Father Adam」と呼ばず「Padre」と呼ぶのではないだろうか。つまり、ジャックは「Father」という言葉を口にしたくない。ジャックが口にしたのはたった2回、過去を打ち明けるときの「my father」と「my own father」だけだ。しかもownをわざわざつけている。

B級のホラーアクション映画と言われるが、ジャックの生い立ちやモントヤとの別れを考えるととても悲惨な話である。あえてジャックとアダム神父が歩いていくところで終わりにしたラストシーンについてのインタビューで、監督が「この映画は関係を描いている」と語っていることからも、ただのホラーアクションとして観ると本質を捉えそこなうかもしれない。

ちなみにラストシーンは『エル・ドラド』という西部劇映画のラストを真似たそうだ。

 

鷲巣義明監修の『ジョン・カーペンター恐怖の倫理』という本もある。この本の中で監督はこの映画について、自分が作った映画の中で唯一、神父がヒーローになる映画であると語り、アダム神父が最後にロザリオを取り出して言うセリフを取り上げている。2つの本で語っているほど、監督にとって重要なシーンだったようだ。

この本ではアダム神父の話はこれだけだが、ジェームズ・ウッズの起用理由や印象を語っていて興味深い。ジャック・クロウは監督自身をモデルにしており、演じるのはジェームズ・ウッズに限ると思ったのだそうだ。

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先程の、アダム神父が最後に取り出したロザリオだが、アダム神父が肌身離さず持っていて、時々取り出しては握っていた大事なもの。ジャックはそれを受け取り、自分のポケットへ。なんだかプロポーズに近いものを感じる。ジャックが完全にアダム神父を相棒として受け入れていることが分かる。

 

個人的に、ジャックとアダム神父を見ていると、加藤諦三著『自分のうけいれ方』の中の「お母さんの木」を思い出す(映画と違ってこの木は下ネタではない)。「お母さんの木」とは、母なるものをもった母親がおらず、心理的に健康な人とはまったく違う育ち方をした人が、母親の代わりにする安らぎの木(風景などでもいい)のこと。アダム神父はジャックにとってこの「お母さんの木」になり得るんじゃないかと、手を振るアダム神父に応えるジャックを見て思った。15歳年下の男に「お母さん」は妙だが、キリスト教でいう「愛」は人一倍強い。

ちなみに、私はアダム神父が手を振るシーンを観て、探していた「お母さんの木」を見つけたと思った。誰かに憎しみを抱いたときはこのシーンを思い出すようにしている。

 

私はもともと『ハード・ウェイ』ファンで、車内のシーンは『ハード・ウェイ』を彷彿とさせる。ジャックがアダム神父に吸血鬼について説明するセリフはジェームズ・ウッズのアドリブで、『ハード・ウェイ』のモスのキャラクターを活かしているように見える。あそこだけ雄弁なのに納得。

 

続編と言われる『ヴァンパイア/黒い十字架』は観たことない。製作総指揮がジョン・カーペンターでも監督が違うし、ジェームズ・ウッズもティム・ギニーも出てこない。しかも、下のサイトに「Deceased」(死者)、「killed by vampires」と書いてあるのを見たのがきっかけで、アダム神父は冒頭で吸血鬼に殺されてお墓に入っていると知り、号泣した。

headhuntershorrorhouse.fandom.com

『ヴァンパイア/最期の聖戦』と似たようなシーンがたくさん出てくるそうなので、続編というよりリメイクと考えたほうがいいと思う。特にアダム神父ファンは。死んだのは同じ名前の別人と思うことにした。