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二見文庫『ハード・ウェイ』ではニックの氷のような目と鋼鉄のような冷静な声にモスが立ちつくす

前の記事で、二見文庫『ハード・ウェイ』は映画と違うところがいっぱいと書きました。具体的にどう違うかについて、何記事かに分けて書いていきます。今回は、ニックがモスを殴った後の場面についてです。

haten-aren.hatenablog.com

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「氷のような目」とは冷ややかで侮蔑に満ちた目のことで、小説でモスがいつもニックに向けていた目ですが、ニックはモスに騙された怒りによって、この目を身に付けます。
モスが、警官になるのがどんな気分か、誰かを殺したらどんな気分になるのかわかったんだから、さっさとハリウッドへ戻って利用したらどうだと、氷のような目で見すえ、侮蔑をにじませた声で言います。
それを聞いたニックは、氷のような目で見返し、鋼鉄に似た冷静な声で、惨めな男だと言います。自分もスーザンもモスのようになりたいと理想化していたが、誰にも心を開かないモスのようにはなれないと。そしてさらに冷静になった声でこう言います。

たぶん、それが警官になることの一部なのだろう。だが、もしそうなら、そんなものはきみひとりで大事にすればいい

引用元:二見文庫『ハード・ウェイ』、J.R. ロビテイル著、堀内静子訳、二見書房、1991、p.291~292

向きを変え歩み去るニックの後ろ姿を見つめ、モスは立ちつくします。 
 
あのモスが立ちつくすほどのショックを受けるんです。言われた内容も当然ショックですが、ニックがモスのような冷たく侮蔑をにじませた目を真似て突き放したことで、まるで鏡を見るように自分を客観的に知ることができ、そういう目を向けられたほうの寂しい気持ちを知ることができたのではないかと思います。

 

一方、映画のモスは「待ってくれ」と呼び止めて最後の一発を顎に食らった後、同僚チャイナからこれが男の絆なのかと聞かれ、別れた女房にそっくり(面倒な分からず屋)だと愚痴ります。小説のモスほどのショックは受けていない様子。

それにしても、ニックに分かれた女房を重ねていたとは。だから「おい待て!」じゃなく「待ってくれ」っていう口調になったのかも。