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『ハード・ウェイ』は脚本ダニエル・パインが撮影前に別の仕事で去らなければもっと深みのあるバディ映画になっていたはず

『ハード・ウェイ』のストーリーと脚本のクレジットには3人の名前があります。

ストーリー:レム・ドブスとテレビ作家のマイケル・コゾール

脚本:ダニエル・パインとレム・ドブス

 

ダニエル・パイン(当時35歳)は、レム・ドブスのオリジナル脚本を書き直した人。AFI|Catalog - The Hard Wayによると、パインは別の映画の仕事で撮影前に去ってしまって、最終的な推敲はジェフ・レノとロン・オズボーンがしたそうです。

別の仕事が何かははっきりしませんが、マイケルの次作「ドク・ハリウッド」の脚本の書き直しだったのかもしれません。

 

ニューヨーク・タイムズ」1991年3月3日(公開の5日前)がダニエル・パインを取材しています。

https://www.nytimes.com/1991/03/03/movies/film-daniel-pyne-did-it-the-hard-way.html

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この記事によると、パインは俳優ニック・ラングをハリウッドの典型的な俳優よりも深みのある実在の人物として作りたかったそうです。そこでインスピレーションを得たのが『サリヴァンの旅』で、裕福なコメディ監督が社会派映画を撮りたくて浮浪者を体験する話だそうです。確かにニックっぽい!

 

サリヴァンの旅 - Wikipedia

一方のジョン・モス刑事は、リアリティーを徹底した刑事ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の最初のシーズンのストーリーエディターとしてリアリティーのある警官を書いていたので簡単だったとのこと。

特捜刑事マイアミ・バイス - Wikipedia

 

パインはコメディーよりもドラマ、しかも人生の暗くて複雑なテーマを好んでいたので、自分では『ハード・ウェイ』のような映画は思いつかなかったそうです。しかし、パインと『ハード・コピー』という作品で協力したことがあったプロデューサーのウィリアム・サッケムは、パインの脚本の対話が素晴らしいと評価しており、1986年にパインを最初に『ハード・ウェイ』のプロジェクトに連れて行き、レム・ドブスによる脚本を書き直す任務を負わせたそうです。

その後4年間で、パインは色々な作品の脚本の書き直しをし、『ハード・ウェイ』の脚本は最終的にジョン・バダム監督とさらにいくつかの書き直しをしたそうですが、別の作品の仕事があって、撮影前に去ることに。バダム監督は別の脚本家チーム(AFI Catalogによるとジェフ・レノとロン・オズボーン)を連れてきて最終的な推敲をさせました。

しかしバダム監督は、脚本をモノにしたのはパインだと言っています。

it was Mr. Pyne who "nailed it," says Mr. Badham. 

引用元:FILM; Daniel Pyne Did It: 'The Hard Way' - The New York Times (nytimes.com)

”nail"という言葉はニックとモスのセリフにも使われていて、バダム監督もここであえて使ったんだと思います。

If I can taste his world, if I can walk his beat, if I can get under his skin, I will nail this part.

引用元:映画『ハード・ウェイ』(1991)のニックの事務所でのアンジーとの会話

ニック「You think I would have got it?」

モス「Yeah, pal. I think you would have nailed it.」

引用元:映画『ハード・ウェイ』(1991)のクライマックスシーンでの会話

nailの本来の意味は「釘を打つ」ですが、スラングで何かを「完璧にできる」という意味があり、You nailed it.は「言うことなし」「完璧だったね」「最高だったよ」という意味です。

 

バダム監督はまた、パインの独特のユーモアと奇抜さ、そして意外性をもたらしてくれた脚本が、マイケルとジェームズ・ウッズを引き合わせたという旨のことも言っています。特にそれが表れているのが、フロッグドッグのところでモスがニックに爆発するシーン。モスが警官が命懸けであることを厳しい口調で説明するまではドラマなのに、ニックが「凄い」と感動しテープレコーダーを取り出して「もう一回言ってくれない?」と頼むことでコメディーに変化。

パインは2人のキャラクターの関係や、バディ映画に一工夫することに興味があったそうです。しかし、皮肉なことに、パインが去った後、オリジナル脚本のレム・ドブスによって、より大きくて、より肉体的なコメディーに戻されてしまったようです。

3月3日の取材時点で、実はパインは完成した映画を観ておらず、自分が書いた『ハード・ウェイ』がどの程度残っているか知りませんでした。近所の劇場で他の観客と一緒に観て、自分が書いた部分に対する反応を見るのを待つと話しています。

パインにとって、完成した初稿の脚本は自分の映画であり、自分の物語であり、その瞬間が好きなんだそう。監督に渡した後は他の人の物になってしまうから。

 

私の勝手なイメージでパインを日本の脚本家に例えるなら、三谷幸喜小林靖子。パインが撮影の最後までいてくれたら、きっとニックとモスの関係の変化をもっと丁寧に描き、余分な派手なアクションシーンはなかったのではないかと思います。

劇場で完成した映画を観たパインは、どう感じたのか…